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Working Backwards(ワーキング・バックワーズ) – BezosとJobs、Backcastingの思考に見る独自性と共通点

Working Backwards

KenKasegawa_WorkingBackwards_紣川謙_ワーキングバックワーズ_

 

株式会社CustomerPerspective
代表取締役
紣川 謙
Ken Kasegawa

 

Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)とAmazonの企業理念

Working Backwardsは、「地球上で最もお客様を大切にする企業になる」というアマゾンの企業理念を具体化する仕組み。私が仕事をする上でいつも大切にしている考え方でもあります。Amazonの創業者Jeff Bezosの参謀だったColin Bryarと、Amazonのデジタル事業を立ち上げたBill Carrが書いたアマゾン草創期・成長期に関する書籍 – Working Backwards – の原題になっているのは、この考え方がアマゾンの成長を実現した仕組みの中で、最も象徴的なものだからに他なりません。本ブログでは、アマゾンならではの思考の代表例として取り上げられることが多いWorking Backwardsの独自性に焦点をあてます。同時に、あまり語られることのないSteve JobsやBackcastingの思考との共通点を深掘りします。
アマゾンの最強の働き方 – Working Backwards 監訳者解説

Working Backwardsの独自性と納得感

アマゾンの最強の働き方を読んでWorking Backwardsの考え方に共感したクライアントとご一緒に、プレスリリースをつくることがあります。そこで多くの皆様から聞くのが「目から鱗がおちた」という感想。世の中のほとんどの企業の発想法と違う独自の考え方である一方で、多くの皆さんの「腹に落ちる」納得感があるのがWorking Backwardsの特徴のひとつ。

そして、いつも感じるのはWorking Backwardsの手法で良いプレスリリースをつくるのはとても大変だが本当に楽しいということです。顧客視点で問題を解決する理想の未来を考え、登場人物を設定し、その人が体験するストーリーを想像します。そのストーリーが素晴らしければ書いた人も読んだ人もワクワクします。私はWorking Backwardsの納得感の源はそんなワクワク感だと考えています。

Working Backwardsを一言で日本訳するのは難しい

Working Backwardsは日本語で何と表現すれば良いのでしょうか。これは簡単なようでなかなか難しい。と言うのも、Working BackwardsはStart with the customer and work backwardsという考え方を短くした表現なのです。日本語訳が難しい理由は、この表現の中で一番重要な”the customer”が省略されており、顧客をぬきに説明すると意味不明になってしまうから。「お客様からスタートしてさかのぼって考える」ともとの一文を訳すとわかりやすくなります。

WorkingBackwardsの意味_日本語版・英語版表紙より

多くの企業では、「商品・サービスからスタート」して、次に「どう売るか」を考えます。これは国籍を問わず、ほとんどの企業で一般的。そのことを身にしみてわかっており、「何かおかしい」と気づいている方もいれば、あまりにも慣れ親しんでいて当たり前になっている方もいます。世の中の一般的な考え方とは逆に、お客様からスタートするのでbackwardsなのです。

アマゾンの最強の働き方 – Working Backwards の帯では「仕事は逆から考える」となっています。本文ではしっかりと説明してあるのですが、帯では文字数の関係もあり、こうなりました。「仕事」という言葉を使っていますが、仕事を何でも逆から考えるわけではありません。商品・サービス・事業を考え、創るという文脈の中で理解することが大切です。そういう場面でお客様からスタートするという点が、世の中の多くの企業とは逆向きなのです。

Jeff Bezosが語るWorking Backwards – Amazonでは必須のプロセス(より良い方法が他にない限り)

YouTubeには、Jeff Bezosが全社員向けミーティング(All Hands Meeting)でWorking Backwardsに関する質問に答えるビデオが投稿されています。
Jeff Bezos – All Hands – Is the Working Backwards process optional?

Jeff Bezosの言葉を引用してみましょう。


“Working Backwards process should not be optional unless you know the better way…so many companies …write the software…(and tell marketing department) here is what we built, write the press release for it. That process is the one that’s actually backwards.”
「Working Backwardsのプロセスは任意ではありません。より良い方法が他にない限り必須のプロセスです。多くの企業ではソフトウェアを開発して、マーケティング部門に『ソフトウェアができた、プレスリリースを書いてくれ』といいます。そんなプロセスこそ本来あるべき姿とは逆なのです。」(筆者訳)


では、Working Backwardsは世の中とは反対の考え方で、こうような思考の枠組みを使っているのはアマゾンだけなのでしょうか。

Steve Jobsの言葉の中のWorking Backwards

4年ほど前、Steve Jobsの過去のスピーチのYouTubeビデオをみていて、Steveが”working backwards”という言葉を使い、Jeff Bezosとほぼ同じことを言っていることに気づきました。その発言は1997年のApple のWorldwide Developers Conference (WWDC)でのことです。
Steve Jobs – 1997 WWDC


“You’ve got to start with the customer experience and work backwards to the technology. You can’t start with the technology and try to figure out where you’re going to try to sell it.”
「顧客体験からスタートしてさかのぼり、どうテクノロジーを活用するかを考えなければなりません。テクノロジーからスタートしてそれをどうやって売ろうかと考えるべきではありません。」(筆者訳)


表現を含めてJeff Bezosが言っていることとほぼ同じです。Steve Jobsのビデオを見て思い出したのは、”Great minds think alike” すなわち、「偉人は同じように考える」ということわざです。

先ほどの言葉の後、Steve Jobsは続けます。


“As we have tried to come up with a strategy and a vision for Apple, it started with what incredible benefits can we give to the customer, where can we take the customer…”
「私たちはAppleの戦略やビジョンをつくるにあたり、お客様にどんな素晴らしい便益を提供できるか、お客様に何を体験していただけるかを考えることからスタートしたのです。」(筆者訳)


なお、1997年のWWDCはSteve JobsがCEOとしてAppleに戻った直後のイベント。Steve Jobsのこの言葉は、聴衆とのQ&Aの場で、あるエンジニアからの失礼な質問(*1)に対する答えの一部です。Jobsは即答せずしばらく考えていました。そして質問の失礼な部分はやりすごし、先ほどのような示唆に富む、深い言葉で彼の考え方を説明したのです。さすがSteve Jobs。その後今日に至るAppleの成長はみなさまご存知の通りです。

Working BackwardsとBackcastingの共通点 – プレスリリースの日付が未来になっている理由 –

Working Backwardsでつくるプレスリリースは、日付が未来の日付となっています。単に商品やサービスのアイディアをプレスリリースに書くだけなら、日付は今日でもいいはずですが何故でしょうか。日付が未来である理由は、プレスリリースが描くものが商品・サービスの理想の未来=ビジョンだからです。Backcastingという言葉を聞かれたことがある方も多いでしょう。Backcastingとは、Forecastingの反対の考え方。John B. Robinsonが提唱した、「理想の未来を考え、それをどう実現するかを考える」思考の枠組みです。


Backcasting is a planning method that starts with defining a desirable future and then works backwards to identify policies and programs that will connect that specified future to the present. (Wikipediaによる引用)
バックキャスティングは理想の未来を定義することからはじまり、さかのぼって考える計画づくりの方法です。そこで描かれた未来を現在につなげるための政策やプログラムを明らかにします。(筆者訳)


今日できることの延長線上で考えると、大きく革新的な発想がなかなかできません。現在直面しているさまざまな制約条件に影響されてしまうからです。BackcastingもWorking Backwardsも、理想の未来を考え、そこからさかのぼってどう実現するかを考える点が共通します。Working Backwardsは商品・サービス・事業の開発において、「理想の未来」をどのように表現するのかについて、プレスリリースやFAQなどの具体的な枠組みを提供しています。その枠組みがわかりやすいのが多くの人に受け入れられる理由です。そして書く人も読む人もワクワクできるのが素晴らしいところだと私は考えています。

Working Backwardsで理想の未来を考えよう

お客様に評価される、画期的な商品・サービスをつくりたいと考えているなら、まずは一度、未来の日付でプレスリリースを書いてみてはいかがでしょうか。お客様からスタートして、正しくさかのぼって考えることができれば、きっと目から鱗が落ちます。すべての企業やビジネスパーソンにとって役立つ考え方です。ワクワクするような理想の未来(=ビジョン)が描けたなら、そのアイディアは画期的な商品・サービスにつながる可能性大です。

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  1. Appleは1997年にOpenDocという技術を次期オペレーティングシステムから廃止することを宣言しました。WWDCではこの方針変更に対し怒りを覚えたエンジニアの一人から、技術の変更に関連する厳しい質問が投げかけられます。質問は「あなたは聡明で影響力のある人だ」という褒め言葉(実は皮肉)からはじまり、Appleから追い出され、ようやくCEOに復帰したJobsに対し、「あなた、一体この7年何していたんだ?」という辛辣な言葉でしめくくられます。

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