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新規事業の機会をみつける

サービス・商品の企画開発

KenKasegawa_WorkingBackwards_紣川謙_ワーキングバックワーズ_

 

株式会社CustomerPerspective
代表取締役
紣川 謙
Ken Kasegawa

 

機会発見に始まる新規事業開発

新商品やサービス、新規事業のアイディアを考えるとき、私はいっしょに働くチームのみなさんと「どんな機会があるか」を考えます。本ブログでは、「機会」とは何かを考え、それを言語化する方法についてご提案します。

機会とは

ここでの機会とは新規事業の機会のこと。私の場合、プロジェクトによってメンバーも業界も異なりますが、考える状況やタイミングは似ています。半分以上のプロジェクトでは、大きな方向性だけは決まっているが具体的内容はこれから考える、という状況です。

「機会」はこの場合、「好機」と言い換えても良いでしょう。外国の方と英語で働く場合は「Opportunity」という言葉を使います。ビジネス用語として「オポチュニティ」とカタカナで使われることもあるので、英語の方が意味がよくわかるという方もいらっしゃるでしょう。AmazonのWorking Backwards(ワーキング・バックワーズ)5つの質問の2番目は、”What is the customer’s problem or opportunity?” です。

AWS re:Invent – Working Backwards: Amazon’s approach to innovation

機会と問題・ニーズの関係

機会は、顧客の問題を解決し、あるいはニーズに応えることから生まれると私は考えています。時々、「問題と機会はどうちがうのですか?」という質問や、「問題は否定的に聞こえるので、肯定的な言葉を使ってニーズを考えた方が良いのでは」というご意見を頂くことがあります。こういった質問や意見に正面から答え、腹に落ちるような説明や文献が私には見つかっていません。そこで、問題・ニーズ・機会の関係についての私の考えを可視化してみました。

機会と問題・ニーズの関係

問題とニーズは表裏一体であることが多いのではないでしょうか。図の右側に具体例も書いてみました。問題を解決する手段、ニーズを充足する手段はいろいろあります。大きな事業機会を考えるときには、最初は手段を限定しすぎないことが重要。そのためには、発想を促すきっかけとなる「問いを立てる」ことが助けになります。

問いを立てる力

日々多くの課題に取り組んでいるビジネスパーソンでも、問いをたてることが不得意な人は少なくありません。私の経験からは、一流企業でエリートコースを歩んできた人はなおさら苦手であることが多いと感じます。それが何故かを考えてみると、思い当たる理由のひとつは日本の学校教育です。幼い時から大学を卒業するまで、日本の教育では問題は与えられ、正解も誰かが知っていることが多いのではないでしょうか。私もそういう教育を受けてきました。

問いを立てることは、自分で問題を考えることです。新規事業を考えるときに立てる問いは、正解があるわけでありません。1) 正解のない問いを 2)自分でゼロから考える、という2つの点で、難しいと感じてしまう人が多いのです。

HMWの枠組みで問いを立てる

事業アイディアの発想のために機会を考え、みつけるために、広く用いられている手法があります。How Might We […](私たちはどうすれば [・・・]できるでしょうか)という質問の[・・・]を考える方法です。How Might We QuestionやHow Might We Statement とも言われ、略してHMW。

もとをたどると、 創造的な問題解決の手法で知られる、 Sidney Jay Parnesが1967年に出版した書籍Creative Behavior Guidebookで最初に紹介された、多くの手法の一つでした。その後、P&G、IDEO、Google 、Facebookなどで使われ世の中に広がりました。その経緯についてはHarvard Business Reviewの下記の記事に詳しく書かれています。

HBR: The Secret Phrase Top Innovators Use

提供者視点になりやすいHMW

私はHMWが大変役立つ思考の枠組みだと考えており、新規事業開発プロジェクトで使うことがあります。ただしひとつの問題を感じていました。この枠組みを使うと提供者視点になりやすいのです。何故かというと、主語の「私たち」はプロダクト・サービスの提供者であり、この枠組みの中に顧客・利用者が入っていないからです。

具体的に考えてみましょう。私の経験から、HMWの枠組みを使って出てくる典型的な問いの例を2つ挙げます。


  • 車の安全性を高めるために、私たちに何ができるでしょうか。
  • 私たちはどうやってスーパーでの買い物をもっと効率的にできるでしょうか。

これらの問いは、事業アイディアの発想につながるでしょうか?

どちらも悪くない問いですが、「誰が顧客/利用者なのか」が漠然としています。また、自動車メーカーが提供する「車」、小売業が提供する「スーパー」といった、提供者視点のプロダクト・サービス名が前提として入っています。「安全性」「効率」は大切ですが、どこかよそよそしくビジネスライクです。このような問いからスタートすることで、提供者視点の「顧客が求めていない物、使ってくれないサービス」のアイディアが出てくることが少なくないのです。

H(Help)とD(Do)を加える

そこで私がご提案する方法は、HMWにHとDの2文字追加した、HMW+HDです。その内容は、


How Might We Help [Someone] Do [Something]

日本語に訳すと

[人(対象顧客)が][こういうことを]できるようにするには、私たちはどうすれば良いでしょうか


となります。この枠組みは、HMWを根本から変えるものではなく、HとDを加えることで、より適切な問いを立てやすくすることを狙っています。

再び具体的に考えてみましょう。先ほどの例をこの枠組みで再整理するなら


  • 運転免許をとりたての初心者が、都会で車を安心して運転できるようにするために、私たちに何ができるでしょうか。
  • 仕事をもつ忙しい人が、時間をかけずに生鮮食料品を買えるように、私たちはどうすれば良いでしょうか。

どちらも、対象顧客がより明確になっています。HとDを加える効果はそれだけではありません。

HとDを加える効果

その効果とは、対象顧客(主語)が加わったために、その後の表現(述語)も顧客視点で考え直す必要がでてくることです。具体的には、その後の思考に下記のように影響します。

  • 実現したいことを顧客視点で考えるなら「(車を)運転できる」「(生鮮食料品を)買える」と言い直せる。
  • よそよそしく、ビジネスライクだった「安全性」「効率」も、顧客視点かつ普通の言葉で「安心」「時間をかけず」と言い換えることで自然な表現となる。
  • 提供者視点で前提となっていた「車」「スーパー」以外にも、いろいろな解決策の発想につながる。

例えば「安心して運転できる」ためには、車自体に加えて、道路や、交通ルール、運転免許をとりたての初心者をサポートするサービスなど、車以外の解決策の可能性もあり。「生鮮食料品を買える」ようにする解決策としては、スーパー以外の小売の業態や、地元の生産者が新鮮な野菜を届けるサービスなどにも発想が広がります。

新規事業に関する研修で、HとDを加えたHMW+HDの枠組みを使ったとき、参加者の皆様に、「この考え方がとても役に立った」「気づきがあった」「腹に落ちた」と言っていただくことができました。

Steve Blankの枠組みがヒント

なお、HMWに加えたHDについては、Steve BlankのValue Proposition Statement の枠組みからヒントを得ています。Steve Blankは、リーン・スタートアップの考え方のきっかけとなる、カスタマー・ディベロップメント・メソッド(顧客開発手法)を創出した連続起業家で教育者です。

Steve Blankの言葉をここに引用します。


Write a value proposition statement that other people understand.  If you can’t easily explain why you exist, none of the subsequent steps matter.  A good format is “We help X do Y by doing Z”.

出所:steveblank.com

他の人が理解できるような、提供価値をあらわす一文を書いてみよう。もしあなたが存在理由を簡単に説明できないなら、その後のどんなステップも意味が無い。「私たちはX(対象顧客)がYできるように、Zを提供する」は提供価値をあらわす良い書式の一つだ(訳および補足は筆者による)


このうち、”by doing Z”は具体的な解決策であり、大きな事業機会を見つけたあとに、じっくりと考えたいこと。HMW+HDには入っていません。しかしながら、事業機会を見つける段階から、このような枠組みで考えることにより、その後の解決策創出にもスムーズにつなげることができるのです。

HMW+HDを使ってみよう

HMW+HDは、何やら記憶媒体やストリーミングサービスの高解像度版(HD=High Definition)のようにも聞こえる名前ですが、顧客視点で事業機会の「解像度を向上させる」という狙いは共通します。

この枠組みは事業機会を見つける手法のプロトタイプ。実践と検証を通じて改善したり、使い方を工夫していきたいと考えています。このブログをお読みいただいたみなさまにもぜひ使って頂き、ご意見やフィードバックを頂ければ幸いです。

関連リンク:Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)日本語版「アマゾンの最強の働き方」(ダイヤモンド社刊)

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