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問題解決と新規事業 – 解決したい問題を明確化する

サービス・商品の企画開発

KenKasegawa_WorkingBackwards_紣川謙_ワーキングバックワーズ_

 

株式会社CustomerPerspective
代表取締役
紣川 謙
Ken Kasegawa

 

問題の明確化の重要性

新規事業や商品・サービスを考える上で、取り組むべき事業機会をみつけた後に、重要なステップとなるのが「解決したい問題を明確化する」ことです。その重要性はいくら強調してもしすぎることはありません。本ブログでは、「解決したい問題を明確化するにはどうすれば良いのか」を考え、その具体的手法についてご提案します。

CustomerPerspectiveBlog_問題と解決策

その新規事業は何を解決するのか?

2023年1年間で私は3桁の新規事業案に触れる機会がありました。企業のアドバイザーや教員として関わった新規事業開発の取り組みを通してです。「これは素晴らしい」とうなるようなアイディアは、解決しようとしている問題が明らかです。そうでないアイディアは、解決したい問題がそもそも念頭になかったり、具体的でなかったり、深掘りできていません。新規事業案を、解決しようとしている問題が明らかなものと、そうでなものの割合をみると、前者は少数で、圧倒的に後者が多いのです。この状況を何とか変えることができれば、新規事業開発の成功の確率は上がるはずです。

問題の明確化が新規事業開発の全工程を左右する

問題を明らかにすることは、新規事業開発の上流の(初期に取りかかる)工程にあるため、これをしっかりと行うことが、下流の(後々取りかかる)工程のすべてに大きく影響します。新規事業を何ヶ月にもわたり検討してきたものの、結局どんな問題を解決したいのか明確でないという事例を見たことは1回や2回ではありません。問題の深掘りが無いままアイディアが先行してしまったからです。

新規事業での「問題」の重要性をあらわす名言として、”Fall in love with the problem, not the solution.” (誰の言葉かは複数の説あり。WazeのCo-founderとして有名なUri Levine著の書籍のタイトルでもある)があります。日本語で意訳をするなら「問題を何より大切にしましょう。解決策ではなく」となるでしょうか。新規事業開発では、最終的には解決策をつくりますが、その前提として問題を深く理解し、その本質を明らかにすることが大切なことを表しています。問題を明らかにすることなく、解決策から入ってしまうと、顧客に求められていない新規事業をつくってしまうことになりかねません。

そしてもう一つ関連する言葉があります。” Love is blind.” (恋をすると欠点が見えなくなる – 意訳) これはもちろんビジネスの世界で生まれた言葉ではありません。しかしながら、さきほどの名言との組み合わせで新規事業開発にも重要な意味を持ちます。解決策と最初に恋に落ちてしまうと、問題の本質も、解決策の欠点も見えなくなってしまいます。そのために迷走してしまう新規事業案は実に多いのです。

それは顧客の問題か、それとも提供する企業の問題か?

問題を明らかにするにあたり、最初に確認したいのが「それは顧客の問題か?」です。新規事業開発で「まず解決したい問題を明らかにしましょう」と条件をつけずに問いかけるとします。私の経験からは、9割位の人は自社(提供者)の問題をあげます。例えば、「最近◯◯事業の売り上げが減少している」「◯◯業務の効率を上げたい」「当社には◯◯顧客向けの商品がない」などはすべて自社の問題です。

新商品・サービス・事業を考える時には、問題はまず顧客の視点で定義することを強くおすすめします。なぜかというと、商品・サービス・事業の価値を認め、お金を払ってくれるのは顧客だからです。消費者でも企業でも、顧客は価値を認めたものを使い、料金も払ってくれます。価値とは、多くの人・企業にとって、自分の問題を解決してくれるものです。もちろん新規事業が成功すると、最終的には売り上げ・利益といった自社の問題も解決してくれます。しかしながら、最初に自社の問題から考えると「解決策である商品・サービスを顧客が使ってくれない」という結果にたどり着く可能性が高くなってしまうのです。

問題をかかえている顧客は誰か?

「顧客の問題であること」が重要だとすると、次に考えるべきなのは、「問題をかかえている顧客は誰か?」です。
具体例を使って考えましょう。「多くの人にとって、健康が問題となっている。健康問題を解決し、だれもが健康で幸せな生活を送れるようにしたい」と考えたとします。「すべての人に健康と福祉を」は国連のSDGs目標でも、3番目に挙げられている大切なテーマです。

新規事業を考えるには、「顧客は誰か」を明確にする必要があります。たとえば、SDGs目標の説明で使われているアフリカの人々の健康問題と、日本で暮らす人々の健康問題は大きく異なります。日本の中で見ても、働き盛りのビジネスパーソンと、リタイア後の高齢者では、健康上の問題の中身に大きな違いがあり、異なる解決策が必要です。働き盛りであれば、睡眠不足やストレス、運動不足が健康上の問題かもしれません。高齢者の健康上の問題は、加齢による機能低下や、長年の生活習慣の影響による疾病の影響が大きくなります。このように対象顧客によって問題が大きく異なるにもかかわらず、「顧客は誰か?」が明確になっていない新規事業のアイディアは非常に多いのです。

アマゾンのWorking Backwards(ワーキング・バックワーズ)5つの質問の最初は「顧客は誰か」です。Y Combinator創業者のPaul Grahamは、「スタートアップの創業者のよくある過ちは何か?」という質問に対して、下記のように答えています。「ユーザーに十分な注意を払わないこと…お金を払ってでも解決して欲しい問題をもつ誰か – 1人でもいいから – をみつけることで格段に良い結果につながるはずです。」(筆者訳。出所:Paul Graham:What are some common mistakes founders make? )

問題は具体的で解決可能な大きさか?

問題を具体的で解決可能な大きさに絞り込むことが重要です。解決する問題が抽象的だったり、大きすぎたりすると解決策を出すのが難しくなります。例えば先ほど例に出した「健康問題」は、抽象的かつその範囲が広すぎて、ひとつの新規事業では解決できません。逆に、あまりにも問題を絞り込みすぎると、対象顧客数や売り上げが小さくなり、新規事業としては成り立ちません。

反対に、非常に絞り込まれた単純な問題には、すでに解決策が存在する可能性が高くなります。「ビタミン不足で不健康になっている」という問題には、ビタミン剤やサプリなどの解決策が存在します。例えば「働き盛りのビジネスパーソンが運動不足で不健康になっている」という問題であれば、大きすぎず小さすぎず、解決策のアイディアも出しやすくなります。

問題の根本的な原因は何か?

もうひとつ大切なのは、問題を深掘りすることです。先ほどの「働き盛りのビジネスパーソンが運動不足のために不健康になっている問題を解決する」方法を考えてみましょう。運動不足の解決のための運動器具やスポーツクラブなど、すでに様々なものやサービスが世の中に存在します。世の中にない、新たな事業機会を創出したいなら、深掘りが必要です。
深掘りの手法として私が良く使う手法は、5 Whys(なぜなぜ分析)です。問題の原因を「なぜ?」という問いで何度も(5回くらい)深掘りすることで、根本的な原因が見えてきます。5回より少なくても多くても構いません。まずは自分ひとりで、あるいはチームで考えてみましょう。その後潜在顧客の声を聞いて、検証できればベストです。

  1. 「なぜ不健康なのですか?」→「運動が不足しているのです」
  2. 「なぜ運動不足なのですか?」→「運動しなければとは思っていますが、続かないのです」
  3. 「なぜ続かないのですか?」→「運動を続けるモチベーションが上がらないのです」
  4. 「なぜモチベーションが上がらないのですか?」→

ここまでくると、いくつかの仮説が出てきます。いろいろな原因があるでしょうが、「つらいから」「楽しくないから」「成果が見えないから」「一人で努力しても孤独だから」などが思い当たります。ここで5つめの質問、例えば「なぜ成果が見えないのですか?」という問いを立て深掘りすれば、問題の解決策を考えることが容易になります。

5Whys – トヨタ生産方式、豊田佐吉とJeff Bezosの思考

5Whys/なぜなぜ分析は、もともとトヨタ生産方式における思考原則。トヨタ自動車工業の元副社長である大野 耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で、こう語っています。「問題が起きた場合、原因の突きとめ方が不十分であると、対策もピント外れのものになってしまう。そこで五回の「なぜ」を繰り返すというわけである。これはトヨタ式の科学的態度の基本をなしている。」「対象物に五回の『なぜ』を繰り返してみよというトヨタ生産方式における思考原則も(中略)佐吉翁の(物に対する真摯な:文脈より筆者追記)態度に通ずる物である」。

Jeff Bezosも5Whys を問題の原因追究に活用する人の一人です。Amazonのフルフィルメントセンターを訪れた時に従業員がベルトコンベアで怪我をした問題の根本的な原因(Root Cause)をみつけるために、5 Whysの手法を使ったというストーリーがあります。

次のステップ

本ブログでは、解決する問題を明確化し、具体化し、絞り込み、深掘りする手順について考察しました。具体的な仮説を持つことで、次のステップである「顧客の問題の検証」を効率的かつ効果的にすすめることができます。問題を検証するには、インタビュー・アンケート・コールセンターの顧客の声・データ分析などさまざまな手法を使うことができます。これらについてはまた別の機会に投稿します。

関連リンク:Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)日本語版「アマゾンの最強の働き方」(ダイヤモンド社刊)

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