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「プロダクト」とは何か?その深い意味と、もっと深い「プロダクトマネージャー不在の企業」が意味するもの

サービス・商品の企画開発

紣川謙_5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト

CustomerPerspective
代表取締役

事業構想大学院大学 事業構想研究所 客員教授

紣川 謙   Ken Kasegawa

 

プロダクトとは何か

新規事業や、新商品・サービスの開発を行うときに、よく聞く言葉に「プロダクト」があります。何気なく使っている言葉ですが、プロダクトとはなんでしょうか。プロダクト開発において、顧客起点で始めたはずが、いつの間にか企業の都合が優先されてしまったり、色々な横槍が入って頓挫してしまったり。プロダクト開発がうまく行かない原因は、「プロダクト」という言葉の理解不足やプロダクトマネージャーの不在にあるのかもしれません。本ブログではプロダクトの意味と、プロダクトマネージャーの存在意義について考察します。

プロダクト=製品?

英語のProductは日本語で製品と訳されることが一般的。「製」の字が入っている「製品」という言葉には、メーカーが製造・加工したもの、と言うニュアンスがあります。Productを日本語にする必要があるとき、私は商品や、商品・サービスという言葉を使います。それはこのブログの冒頭にも書いた通り。では商品とサービスを両方含めれば、プロダクトの意味を正確にとらえたことになるのでしょうか。自分で使っていながら正直に言うと、私は「商品・サービス」と言うだけでは甚だ不十分だと考えています。

プロダクトとは「包括的なユーザー体験」

私自身、インターネット・金融・小売の業界でプロダクト開発に自らオーナーとして携わり、「プロダクトとは何か」を頭からではなく、経験から学んできました。「プロダクトとは何か」を誰かに説明してもらった記憶はありません。プロダクトの「これはわかりやすい」と思う定義を最近見つけたので紹介すると、以下の通りです。


Product
= Holistic User Experience
= Functionality + Design + Monetization + Content

プロダクト
= 包括的なユーザー体験
= 機能+デザイン+マネタイゼーション+コンテンツ

参考記事:Defining Product- Silicon Valley Product Group


プロダクトを要素に分解する

可視化すると下の図のようになるでしょうか。4つの要素は重なる部分も多く、排他的なものではありません。

例えばLINEというコミュニケーションアプリを題材に考えてみましょう。機能はメッセージ、デザインは直感的なUI、マネタイゼーションはスタンプ課金や広告、そしてコンテンツは公式アカウントやニュースなど多様です。これらがLINEのプロダクトを構成し、一体となって包括的なユーザー体験を提供していることになります。

先ほどの記事はこれらの要素を具体的に説明します。私の言葉も補って説明すると

  • 機能とは、プロダクトに「何ができるのか」。
  • デザインとは、以下が融合したもの
    • インタラクション・デザイン(利用者とプロダクトの相互作用のデザイン)
    • ビジュアル・デザイン(色・形などの視覚的なデザイン)
    • 工業デザイン(工業製品の外観・機能などのデザイン。形のあるデバイスの場合)
  • マネタイゼーションとは、収益を上げる戦略のこと。広告・サブスクリプション・購入などの様々な方法を含む。
  • コンテンツとは、独自コンテンツ・利用者が作成したコンテンツ(ソーシャルメディアなど)、すでに存在するコンテンツの集成(アグリゲーション)を含む。

この記事の筆者はInternetプロダクトを想定して定義しています。形があっても、現在革新的なプロダクトの多くはネットにつながっているのでこの定義が参考になるはずです。車でも、家電でも、業務用の機器でも同じ。

プロダクトマネージャーが果たす役割とその重要性

新プロダクトを開発するプロジェクトでは、優秀なプロダクトマネージャーの存在が何といっても重要です。PMと略したり、プロジェクトマネージャーと混同しないようにPdMと略したりします。

優秀なプロダクトマネージャーは革新的なプロダクトを生み出すスーパースター。プロダクトのライフサイクルの全てに責任を持ち、ロードマップ作成・新プロダクトの企画・提案書作成・顧客調査・プロダクト開発・ローンチまで何でもこなします。私は米国企業でキャリアを積んできたので、国籍多様な開発チームの共通言語は英語であることも普通。私が出会った有能なプロダクトマネージャーは英語でのコミュニケーションも達者です。私がアマゾンに在籍していた時、最も苦労したことの一つは優秀なプロダクトマネージャーの採用。スーパースターを見つけるのは簡単ではありませんが、採用することができたら事業の成功が近づく、それ位インパクトがある重要なポジションです。

IT業界以外にプロダクトマネージャーがいない日本

プロダクトマネージャーに関する米国の調査(Zippia:Product Manager demographics and statistics in the US)によると、いろいろな業界にプロダクトマネージャーがいることがわかります。Fortune 500という「業界ではない区分」が24%入っていますが、それを除くとトップの業界はTechnologyで20%. これに近いInternet, Telecommunicationと合わせて計29%。製造業(9%)、金融(8%)、小売(5%)も上位に入っています。プロダクトマネージャーが様々な業界にいることがわかります。

現職で日本の企業のアドバイザーとして新規事業開発に関わるようになり、気づいたことの一つはプロダクトマネージャーの不在。プロダクトマネージャーは、いわゆる「IT業界」に属す一部の企業に集中しており、その他の業界では非常に少ないのです。「日本のプロダクトマネジメント大規模調査レポート(PM Career)」によると、プロダクトマネージャーの63%は「担当プロダクトの事業領域・業界」として「IT・DX関連」と回答。同列には比較できませんが、先ほどの米国の調査では「Technology, Internet, Telecommunication合計」の合計が29%。日本における「IT・DX関連」への集中度は非常に高いと言えます。

日本企業では、例えばメルカリやSmartHRはプロダクトマネージャーを積極的に採用・育成しています。メルカリのPdMのインタビュー記事*1では、PdMは「ものづくりにおいての川上から川下まで責任を持ち、プロダクトの成功のためならできることは何でもする人」とのこと。メルカリでは新卒のPdM職を募集しています。SmartHRには2024年3月時点で25人のプロダクトマネージャーが在籍*2。プロダクト毎にロードマップとOKR(目標と主な結果を明確に設定する目標管理手法)があり、担当するプロダクトマネージャーがそのオーナーシップを持っているとのことです。

出所*1:メルカリの未来をつくる仕事(PdM編)
note.com/mercari_newgrads/n/n297abafe5cd0
出所*2:Smart HR Tech Blog
tech.smarthr.jp/entry/2024/03/21/172754

プロダクトマネージャーがいないと何が起きるのか

「プロダクトマネージャー」という肩書きを持つ人がいないこと自体は問題ではありません。肩書は違っても、プロダクトマネージャーに相当する広範な責任と、それを支える広い知識と経験、推進力を持った人がいれば問題はありません。問題はそういう人がいないことです。

「商品企画部門」「事業開発部」「プロジェクト管理室」などがある、という企業もあるでしょう。多くの日本企業では、組織が縦割りになっています。これらの部門があっても、今までお話した「プロダクト」の一部のみを担当していたり、権限委譲が不十分で重要な意思決定ができなかったりと言う組織が少なくありません。

縦割りの具体例は、商品部門が当初の商品の企画だけを行う組織です。このような組織では、プロダクトを作る段階で製造・開発部門に担当が移って手を離れ、ローンチ時のマーケティングや販売は営業担当部門が行うことが一般的。商品の企画・開発・マーケティング・販売、といったプロセスが、ベルトコンベアのようにすすんでいきます。一旦下流に流れたプロジェクトは戻ってこないので、形になったプロダクトへの顧客のフィードバックを得て、行きつ戻りつ、何度も改善・向上することが難しくなります。

プロジェクト管理室の役割は部門間の調整、といった組織は、権限委譲が不十分な具体例です。そのような組織では、重要な意思決定は執行役員レベルにお伺いを立てる必要がある、といったことが起きます。

どちらの例も、組織設計だけの問題かというとそうではありません。広範な責任と知識・経験を持った、全てを任せられる人がいないという問題があります。有能なプロジェクトマネージャーには、戦略的思考・顧客理解力・技術理解力・計画立案能力・プロジェクトマネジメント能力・コミュニケーション能力・リーダーシップなど、幅広い能力が必要。プロダクトマネージャーの不在と組織の問題は、表裏一体、ニワトリと卵の関係にあるのです。

プロダクトマネージャーが解決する問題

新プロダクトの開発には様々な問題が立ちはだかりますが、有能なプロダクトマネージャーがいれば問題の解決策になり得ます。具体的な問題を考えてみましょう。

顧客起点のプロダクト開発が困難:優秀なプロダクトマネージャーは自ら顧客に接し、顧客のニーズや問題を最もよく知る人。「包括的なユーザー体験」を考えるプロダクトマネージャーが顧客起点のプロダクト開発を推進します。

開発のスピードが遅い:開発に時間がかかる原因に、関係者にプロダクトに関する知見と判断力が欠けることがあります。重要な意思決定をすべて上層部にはかっている場合もあります。優秀なプロダクトマネージャーは、データや自らの経験をもとに、迅速な判断を下せる人です。技術や顧客ニーズの変化が激しい現在、意思決定の遅さは致命的です。また変化の激しい技術や顧客ニーズを上層部が一番よく知っているとは限りません。

開発が頓挫する:開発が頓挫する根本的な原因の具体例に、オーナー不在で推進力が不足していることがあります。強いオーナーシップと問題解決力を持ったプロダクトマネージャーがいれば、多くの課題は乗り越えられるはずです。

失敗が次の開発に活かされない:頓挫しても失敗を次の成功に活かすことができれば、次の革新的なプロダクトの開発につながります。プロダクトマネージャーやそのチームに知見が蓄積されれば、時と共にプロダクトの開発力は上がっていきます。縦割り組織だと、「昔の担当者は異動しており、当時の状況は今のメンバーの誰にもわからない」と言うことが起きます。「プロダクトマネージャーをできる人がいない」という理由でプロダクト開発を外注し、丸投げする企業も少なくありません。丸投げすると、知見が社内に蓄積しません。

プロダクトマネージャーのキャリアパスをつくる

プロダクトマネージャー不在の問題をどう解決するのか。上記のような問題解決力があるプロダクトマネージャーを採用し、権限委譲すれば良いと単純に考えがちですが、問題はそれほどシンプルではありません。

プロダクトマネージャー職をつくり、採用することに加え、プロジェクトマネージャーのキャリアパスをつくることが必要だと私は考えています。プロダクトマネージャーとはスーパースターですから、多くの社員が憧れるようなポジションであるべきです。プロダクトマネージャーがPdMのチームリーダーとなり、部門長になり、経営層に加わり、将来トップ・マネジメントを担う。そんな企業には多くの優秀な人材が集まり、革新的な顧客起点のプロダクトが生まれるはずです。

あなたの会社には“包括的なユーザー体験”を担う人がいますか?プロダクトマネージャーの採用・育成・キャリアパスづくりを始めませんか?このブログが革新的なプロダクト開発を目指す多くの企業の参考になることを願っています。

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